前回に続き、下記の工程で
「コンパクトと黒真珠の風景」を題材に、
どのように鉛筆画を描いているのかをご紹介しています。
1)構想を練る |
2)下書きを完成させる |
3)全体に色をまわす−1 |
4)全体に色をまわす−2 |
5)インクを加えて色調を整える |
6)テーマとシーンに沿って完成させる |
鉛筆画を描く
2)全体に色をまわす−2
「全体に色をまわす」の後半戦。鉛筆の描き方を駆使して、華麗なリアリズムの世界に迫っていきましょう! |
ここまでの作業工程で、
各モチーフや光の流れなどに配慮しながら、
鉛筆色を乗せてきていますが、
実は、
前もって計画していた描画方法で描き進めています。
「2)下書きを完成させる」の回で、
描く前に「描画計画」を決めておくことをポイントとして揚げました。
この描画計画とは、
写実絵画としてのリアリズムを生み出すために、
モチーフや空間の描き方を予め決めておくことです。
今回選択した主な描画方法は下記の通りです。
項目 | 部位 | 描画方法 |
サイドボード | 机&引き出し部分 | 黒細強線で木目やノコ目をしっかり定着。その後木目に沿って塗装感や光を強調する中黒細線を載せる。 |
スタンド | 足元 | マーブル模様を短い黒細強線で描き、細線でなじませながら石感を出す。 |
支柱 | 正確に形を取り、黒細強線で金属の強い対比色調を表現する。 | |
傘 | 太め中黒線で濃淡を作りながら、傘飾りのフサの繊維感を表現する。 | |
ストール | 生地 | 生地にうっすら織り込んである模様を薄細弱線で繊維の方向に描く。 |
刺繍 | 黒細強線を用いて短い線分で構成し、縫うような刺繍感を表現する。 | |
コンパクト | スタンド支柱と異なるように、黒細強線を細部に渡り明暗対比構成する。 | |
黒真珠 | 画面に強固な黒が意識されるように黒細強線を細やかに塗り重ねる。 | |
かすみ草 | 枝も花も描き残し。その後ユニットにして薄細線で塗り重ねる。 | |
背景 | 薄細弱線と薄細線を幾度も重ねていき、光の深みを表現する。 |
上記の中の”鉛筆の線”には、種類がいろいろありますが、
概要は下記の通りです。
シン先 | ①の削り方 | ②の削り方 | ③の削り方 |
極細 | 薄細弱線
鉛筆の重さだけで描く |
薄細線
鉛筆を立てて緩く描く |
=== |
細 |
=== |
細線
基本の描き方 |
黒細強線
鉛筆を立てて強めに描く |
中 |
=== |
中細線
細線を描き進んだ状態の線
|
太め中黒線
やや強めで描く |
鉛筆シン先の形状を常にコントロールしながら、
設定した描画方法に従って、丁寧に描き進めています。
では、引き続き、描画を進めていきましょう!
今回のシーン全体の背景になっている
背後の空間に色を回していきます。
「⑥奥へ回る光」を意識しながら、
サイドボードのトップ(右上)から、
サイドボードの背後を通って、
コンパクト裏(左下)へ抜けていく空間を描きます。
途中、かすみ草が光を受けて輝く部分があるので、
かすみ草を白く残しながら、慎重に進めます。
スタンド光のグラデーションの明るい部分は、
鉛筆を親指と人差し指の2本で軽くつまんで持ち、
鉛筆自体の重さを利用して薄細弱線を描いていきます。
画面の中心に位置するスタンドを、
「足元 →→ 支柱 ←← 傘のフリンジ」と、
支柱に向かって、暗い側と明るい側とで挟み込むように、
明度を調整しながら描いていきます。
それぞれ、大理石、金属、布と
質感が変化していくので、
描画方法に気をつけながらすすめていきます。
中央部の空間に浮かぶように存在している「かすみ草」は、
一つ一つの花や枝として見るのではなく、
少し大きな空間を占めているユニット(空間の塊)として捉えて描いていきます。
同時に、「図」であるサイドボードの支柱を意識しながら、
「地」であるサイドボードの背板を通して「⑥の奥へ回る光」を描きます。
この絵で一番目に飛び込んでくるモチーフの
コンパクト、黒真珠、ストールなどを、
「④メイン光と⑤サブ光」を意識しながら描いていきます。
具体的な鉛筆の持ち方や描き方については、
「鉛筆の描画練習のすすめ」を、後日別のブログで 詳しくお話ししたいと思います。
ところで、
描き進めていく中でいつも思うことですが、
モチーフ自体が持っている「美のカケラ」を壊すことなく、
その美しさを醸成させていくにはどうしたらいいのか
と、試行錯誤の連続です。
しかし、
写実絵画だからと言って、
モチーフを忠実に写し取れれば完成というわけではありません。
大切なことは、
テーマに基づいたシーンを構成するモチーフを通して、
自分独自の「美のカケラ」で、
何を伝えていくのかではないでしょうか。
作品制作にあたっては、
自分独自のテーマや、自分の感じる美のあり方などを、しっかり伝えていくために、
モチーフ自体の美、光や空間のあり方、モチーフ同士が作り出す形や色調バランスなど、
表現のための考え方や技術などを駆使して描きこんでいきます。
その中で、特に重要なのは、
強調と省略という技術であり考え方です。
自分らしい表現を手に入れる上で、
この強調と省略はアーティストとしての最大の特徴となる
と言っても過言ではありません。
どの部分をどのような方法で、強調や省略を行っていくのか、
実際に見えている様子を分解して、
自分なりの目を通して”再構築”していく。
これは、
一生涯に渡ってチャレンジする大きなテーマの一つです。
項目 | 概要 | 事例 |
強調 | 自分の感じたものを、強く感じられるように、その部分を目立つように表現していきます。またテーマに関連する表現が強く主張されるように強調していきます。 | 色調に変化を与える
形の特徴をもっと出す 光の流れなどを変更する 伝えたいモチーフ等を浮かび上がらせる etc. |
省略 | 簡単にするために一部を取り除いたりすることですが、伝えたい内容を手短に簡単にするために不要なものを取り除いていきます。 | 色調を平坦する
形を目立たなくする 光の効果を減じる メイン以外のモチーフを周りに馴染ませていく etc. |
ここでは、
強調と省略の中の一つの例として、
光の流れやあり方を再構築していきます。
美しさを強調するために、
光の様子を利用して、
強調したい部分の明暗の割合を変更したり、
色調のバランスを変えたりしていきます。
また、光が複雑に絡み合った様子をわかりやすい美に昇華させるために、
すっきりとした光のあり方に省略したりします。
光が当たる場所や形、光の流れの様子など、
自分なりに感じている美によって、再構築していきます。
この後はインクの描画に入いりますが、
インクは鉛筆とは全く異なる材料ですので違和感が出てしまいがちです。
そのため、
全体に①〜⑥の光が表現されているかの確認、
インクの色調に対する鉛筆の色調合わせなど、
インク色をイメージしながら調整しておきます。
このようになりました。
いかがでしょうか。
次回は、
「5)インクを加えて色調を整える」
では、またお会いしましょう。
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